院長のつぶやき

随想(苫小牧民報新聞ゆのみより)

2週間に1度、月曜日の苫小牧民報に掲載された文章です。
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攻めの治療と守りの治療

  平成11年8月30日 苫小牧民報「ゆのみ」より

 最近、医師の間でも漢方薬が見直され始めている。日本東洋医学会(主に漢方薬についての学会)に大勢のドクターが日本中から集まり、私も含めて?若い医師も多い。

 西洋医学は、多くの病気に絶大な威力を発揮するが、時々重い副作用がある上に、病気や病気の部分は治せても、心を含む体全体のゆがみを治すのは不得意である。いっぽう、東洋医学は漢方薬には体力をつける薬がいくつもある。病人の体力、体質に合わせて、その抵抗力を高めて病気を治す「守りの治療」ができる。身体のバランスのゆがみや、体力や抵抗力のあるなしの程度によって薬を使い分けることができる。

 大きな手術の後で体力が弱っている場合や栄養状態の悪い患者さんが肺炎にかかった場合、抗生物質を投与しただけでは必ずしも治らない。たとえ治ってもすぐに再発したり、別の感染症を引き起こす事がある。それは病気だけ治療して、病気になりやすい体質を治療していないからである。

 最新式の抗生物質搭載ミサイルで侵略して来たばい菌軍団を攻撃し続けると、かえって体力を弱めることがある。戦場は体内である。あげくの果て抗生物質の効かないMRSA(多剤耐性黄色ブドウ球菌)やまるでゲリラのような緑膿菌にてこずることになる。

 敵(病気)を知り、おのれ(患者さんの体力と体質)を知れば百戦あやうからず。そして、体に害を与えずに病気だけ攻撃する、必要最小限の薬をいかに選ぶかが医師の腕の見せ所となる。最新の薬や強い薬を使うことよりも、攻めと守りのバランスをとる「さじ加減(かげん)」が大切なのである。

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